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日々常々

ふつうのプログラマがあたりまえにしたいこと。

著作物の私的複製と「自炊の森」問題

日常

このエントリは法律の知識が殆どないプログラマである私が勝手に書いているものです。
弁護士の意見も伺ったりしていますが、意見の全てを私が汲み取れたはずはありません。聞き漏らし誤解曲解なんでもありです。また、法律の解釈は何通りもあり、ここに書かれていることが唯一の絶対解ではない事にも注意してください。もし法律の解釈が一通りならば、裁判はもっと機械的に味気なく淡々と行われる事でしょう。実際の裁判なんて見たことありませんけれど。

参考

総務省のも著作権情報センターのも両方とも同じ事かいてます。検索したら二つ引っかかったので並べてているだけです。


著作物の私的使用のための複製について

まずこのような事を聞いたことがある方は多いと思います。私は今日までこれを信じていました。

著作物を自分で使うために行う複製は、著作物の原本を持っている場合だけ、バックアップの形でのみ許されている。

これに関しては法律上の根拠がありません。都市伝説と言ってしまって良いかも知れません。
著作物の私的使用のための複製は、原本の所持に関わらず認められています。ですので原本を持たない場合でも問題はありません。
そもそも著作物を複製する権利は、著作権法第二十一条に"著作者が複製する権利を占有する"とある通り著作者のが有する権利です。他人は複製自体ができません。しかし、著作権法第三十条第一項に"私的使用目的ならば使用者が複製できる"とあります*1。この場合に限り複製が許されているわけです。前述したとおり"使用者が複製できる"ですので、第三者に複製物を譲渡する事はできません。「友達の為にコピーしてあげる」は私的使用目的ではないので、複製する権利がありません。つまり複製した段階で著作権侵害になります。
ただし、レンタルCDを複製する場合はこれだけでは済みません。著作権法第三十条第二項があてはまります。"デジタル方式の録音又は録画の機能を有する機器であって政令の定めるもの"と書かれても正直判りませんが、こういう"政令の定めるもの"とかが出てきたら著作権法施行令を見るんだそうです。見たら見たで訳がわかりません。とか言ってたら話が進みませんので頑張ります。著作権法施行令第一章第一条です。第一項第一号はDAT、第二号はDCC、第三号はMDっぽいです。第四号の直径80mmまたは120mmの光ディスクがCDで、音楽CDの複製はこれに当たりそうです。ここまで行って著作権法に戻ると、一応意味がわかるようになります。第三十条第二項には"私的使用のためにデジタル方式の複製を行う場合は補償金を著作権者に支払わなければならない"となります。このようにデジタル方式の複製の場合のみ補償金が発生するため、ごっちゃになって冒頭で書いた誤解が生じたと考えられます。なお、レンタルCDの音楽をカセットテープに複製する場合、第三十条第二項は適用されないので、補償金だとかは要らない事になっています。
ところでレンタルCDを複製したことはあるのですが、補償金を払った記憶がありません。いつか請求されたりするのでしょうか。とりあえずはそんな事はありません。第三十条第二項は機器と媒体を限定しているため、複製回数すなわち媒体の使用回数になります。複製回数に応じて別に請求するのは堂考えても現実的じゃないため、媒体に既に補償金はかけられています。ブランクCD等の料金の一部になっていると思えば、補償金は支払っている事になります。なるんです。きっと。
記憶に新しい"iPod課金"は、iPodやHDDをこの第三十条第二項の"政令の定めるもの"に含め、補償金を支払う対象にしようとする動きです。こちらの話はまだ決着していなかったと思いますが、深く突っ込むのは避けておきます。

実はここまでは前説。

そもそも著作権法を調べようと思った発端は"自炊の森"にあります。
店内の漫画を「自炊」するレンタルスペースが仮オープン、裁断済み書籍を提供、ネット上は懸念の声多数 / AKIBA PC Hotline!
裁断した本を漫画喫茶のように自由に手に取れる状態にしておいて、それを利用者が勝手に電子書籍化するってやつです。著作者を馬鹿にしてるようで話にならんと切り捨てたいのですが、ではこれを止めさせる事はできるでしょうか。容易にできるならばそもそも話題にすらなりません。

違法行為なのか?

著作権を侵害するならば簡単なんですが、そうもいかないようで。

  • 利用者が著作物を私的使用の為に複製する。
    • 問題ありません。
    • 完全に私的使用の為の複製であり、利用者には問題ありません。
  • 本を閲覧させる。
    • 問題ありません。
    • 文化庁によると、店外に持ち出さない限り貸与にはあたらないようで。

行われている行為自体は、店が提供し、利用者が複製する。これだけです。気になったのは、この二つの間がどうも開いているように感じる点。つまり「著作物の私的使用の為の複製は、著作物の所有者じゃないとだめなんじゃないの?」と思ったわけですが、第三十条は"複製物を私的使用する者が複製できる"と解釈出来るため、所有者の必要はないのです。この解釈では、使用者が複製すれば問題ない事になってしまいます。なんか気持ち悪い気もしますけど、これだけを単純に見ればそういう気もするから困ったものです。所有者が関係したとしても、無償譲渡だとか言われると効力を失いそうですし。著作物の利用による収益が著作者に還元されないのは不愉快ですけれど、それは別の議論になります。
著作権の侵害を満たすためには、著作権を侵害する"複製"と言う事実が認められる例外である、第三十条にあたらなくする必要があります。第三十条第一項には除外される条件として第一号から第三号が掲げられていますが、今回の場合においてはどれも該当しません。

著作権侵害とならないのか?

私はこの件は問答無用で著作権侵害になって欲しいと思っています。著作権は著作物の利用を制限する事で著作者の利益を守るものです。今回のような事が認められてしまうと、存在価値が薄れてしまいます。
この件に関しては、カラオケ法理をほぼそのままなぞって「店が著作物を用意し、著作物の複製機材を用意し、それにより利益を得ているため、店自体が著作物の利用主体である」と行けば、店が複製を行っているとなります。そうなると私的使用のための複製にはならないため、著作権の侵害になるはずです。
すんなり適用されると物凄くあっさり決着しそうな気はするんですが、"知的財産に詳しい弁護士"とやらがこれを知らないはずがありません。私にはこの法理を適用するための阻害要因が見当たらないのですが、適用出来ると言う明確な根拠も持ちません。著作物を利用して収益を得ている部分が一致する程度です。カラオケ法理が適用できないならば、ここまで書いたような解釈では著作権法上の問題は存在しないとなってしまいます。その為、現状ではこの行為自体を違法だと糾弾できない状態です。

でもそもそも

誰が訴えるんだろう。
全国展開するとか、日本中の漫画喫茶が全部こういうのをはじめるとかなら兎も角、たかが一店舗。著作者のモチベージョンは急落しているようですが、実際の損害額は知れてるため、著作権侵害で損害賠償請求した所でお小遣いにしかならなさそうなので、出版社が訴えるかどうか…。
個人的には著作物を著作者に還元されない形で手に入れようっていう利用者が気に食わないのですが、それを言い出すと中古もそうなっちゃいますので、私自身を私が気に食わないって言っちゃってる状態になりかねません。
それより、出版社が電子書籍をまっとうな値段で販売したら勝手に潰れる気がするから困ったものです。

*1:私的使用であっても複製できない条件もありますので、私的複製を行う場合は第一号から第三号も読んでおいたほうがいいです。法律を「知らなかった」は基本的に通じないようですので。